室蘭登別食介護研究会 市民講習会

漢方薬・食・感染

漢方の知恵を食事に生かす

牡蠣とノロウイルスの親密な関係

はじめに

2018310日(土)、登別市総合福祉センター しんた21 にて、「漢方薬・食・感染」と題して、市民講習会を開催しました。

毎年、東日本大震災の起こった311日前後の週末に、様々なテーマで市民講習会を開催し、今年で第4回になります。今年は、皆川の大学医学部の同期生であるお二人をお招きして、それぞれ今の仕事と、「食」との関連でお話しをして頂きました。

以下、配布資料を掲載いたします。

 

【当日のプログラム】

14001415  ごあいさつ・基調講演 「安全な食べ物とは」

(皆川夏樹(みながわ往診クリニック院長/室蘭・登別食介護研究会代表))

14151455  「漢方と食と養生」(上野泰史先生(上野クリニック院長(大阪市淀川区))

(休憩)

15001540  「牡蠣をいじめないで・・・牡蠣はなぜ『あたる』のか?」

(大澤真先生(滋賀医科大学医学部付属病院感染制御部講師))

15401600  シンポジウム/質疑応答 「からだにいい食べ物について」

 

基調講演 / 安全な食べ物とは (皆川夏樹)

たべもの、と、くすり、と、毒、は、明確に分かれているように思われるかもしれませんが・・・

実際には、その区別は甚だ曖昧なものです。

中国最古の薬物書に『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』があります。“神農”とは40005000年前と言われる古代中国の神で、身近な草木の薬効を調べるために自らの体を使って草根木皮を嘗め、何度も毒にあたっては薬草の力で甦ったといわれています。こうして発見した薬によって多くの民衆が救われ、神農は薬祖神として祀られるようになりました。

当たり前のことですが、古来我々は、環境にある様々なものを、口に入れてよいかどうか、食べられるかどうか、を一つ一つ確かめながら、そして、その中から、体に「良い」作用をもつもの、「悪い」作用をもつもの、を選び出してきたのです。そうして、くすり、や、どく、が選び出されてきました。そうした知識の集大成が、漢方医学/東洋医学、として今に伝えられています。

我々が普通に日常の食事の中で用いている「しょうが」。これは、漢方薬としても用いられ、「しょうきょう」と呼ばれ、解熱・健胃、などの作用があるとされています。あるいはまた、これを干したものを別に「乾姜(かんきょう)」と呼んで、さらに体を温める作用が強い薬として用いるのです。

 

あるいはまた、「毒」として有名になってしまった「トリカブト」も、もともとインドや中国では、鎮痛作用を持つ薬として珍重してきました。上手に調整して少量使う分には、くすりとしての作用を持つ、と考えられており、今でも多くの漢方薬に使用されています。

大阪の道修町は、こうした漢方薬の問屋が集まっており、上記の神農さんを貴ぶお祭りが毎年開かれます。関西地域では、こうした古い伝統のある漢方薬/東洋医学は、北海道などと比べるとかなり身近なものなのです。

 

上野泰史先生は、専門としては精神科に所属していますが、私を含めた3者の中で、唯一「漢方」「東洋医学」のクリニックを、新大阪駅前で開業し、もう10年になります。製品となっている「エキス剤」の漢方薬ばかりではなく、煎じ薬も処方できる態勢を整えている、関西地域でも数少ない本格的な漢方クリニックです。漢方で考える「養生」としての「食」についてお話ししていただきました。

 

 

 もう一つのテーマ。たべもの、を考える時に、それが「おいしい」ものであればあるほど、人間以外の生き物も、その食べ物を狙っています。鳥や虫のような大きな生き物もそうですし、もっと小さな「微生物」も、食べ物にはつきものなのです。

厚生労働省のホームページからの引用です。

「アニサキス」という寄生虫は、サバ、イワシ、カツオ、サケ、イカ、サンマ、アジなどの魚介類に寄生します。魚介類の内臓に寄生しているアニサキス幼虫は鮮度が落ちると、内臓から筋肉に移動することが知られています。

これを避けるためには、−20℃で24時間以上冷凍するか、十分加熱することが必要です。

北海道では鮭を雪の中に埋めて凍らせてから、食べる際に小さく切り分けて、火で炙り半分溶けた状態で食べるルイベという鮭の料理があります。経験的に冷凍すれば寄生虫が死ぬことが分かっていたのです。

 

また、牡蠣の「ノロウイルス」も有名になりました。

その一方、牡蠣もまた、(ここでは貝殻の方ですが)「ボレイ」と呼び、漢方薬として長く使われてきています。

たべものには、さまざまな微生物もくっついていることはあります。おいしいからね。

人体にとってよろしくない作用を及ぼす微生物がいる場合、「感染」の危険があるわけですが、感染を防ぐ為には、食べ手側にも、健康な体や、一定の知識、また、その微生物を取り除くための「料理」が必要です。

 

大澤真先生は、もともと磯辺の生物が大好きで、私(皆川)も何度か一緒に水族館やら海岸やらに遊びに行きましたが、その関係であるのか?京都大学では、胸部疾患研究所(旧結核研究所)に進み、微生物〜小さな生き物への愛を貫いて、感染症の専門の道に進んでいます。今回は、今まさに旬の話題として、牡蠣とノロウイルスについてのお話しをお願いしました。こちらはまさに、「悪い作用」を及ぼすかもしれない食べ物について、のお話しです。

 

 

「漢方と食と養生」(上野泰史先生))

[心]

l  血液の循環〜循環器の機能

l  精神活動、睡眠、意識〜中枢神経系の機能

[肝]

l  血液を貯え、血液量を調整

l  気というエネルギーのめぐりを調整

l  自律神経の調整

l  感情のコントロール

l  筋、腱、じん帯、爪、目の機能の調整

[脾]

l  胃腸のこと 消化、吸収の機能
「脾は後天の本」

l  水液をめぐらす 

脾が弱ると水の流れが停滞する
水毒〜停滞した過剰な水
鼻炎、花粉症、副鼻腔炎、喘息、浮腫、多汗症などを引き起こす

[肺]

l  呼吸をつかさどる

l  皮膚、鼻、のど、気管支、肺臓をコントロールする

l  免疫機能

l  体温調節〜発汗など毛穴の開閉

l  肺と大腸は表裏の関係〜不要なものを外に追い払う

[腎]

l  親から受け継いだ気を「精」として貯蔵している〜先天の気
精とは生命力のエッセンスのこと

l  免疫力、生殖能力、ホルモンなどの働きをコントロールする

l  体内の水分代謝をコントロールする

 

陽気=先天の気(腎気)+後天の気(脾胃の気)+天空の気(肺から)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[脾を元気にする食べ物]

l  黄色の食べ物は脾に入る

かぼちゃ、しょうが、栗、さつまいも、ジャガイモ、とうもろこし、大豆など

l  他には

玄米、もち米、そば、小麦、大麦、蓮根、ニンニク、山芋、里芋、昆布、人参、豆腐、

黒豆、ニンニクの芽、インゲン豆、ネギ、豚肉、羊肉、鶏肉、えび、うなぎ、鯛、

イワシ、鮭、リンゴ、ぶどう、醤油、みそ、ゴマ、酒かす、シナモンなど

 

[腎を元気にする食べ物]

l  黒色の食べ物は腎に入る

黒豆、黒ゴマ、黒米、黒キクラゲ、海藻類(ひじき)、黒酢など

l  木の実

クルミ、松の実、クコの実、桑の実、落花生、栗

l  粘りや渋みのあるもの

山芋、もち米、蓮の実、銀杏、牡蠣

l  温性のもの

羊肉、牛肉、鶏肉、豚肉、エビ、うなぎ、ショウガ、シナモン、ニラ、よもぎ

l  鹹味(かんみ)のもの

なまこ、海苔、昆布、海藻類

 

 

「牡蠣をいじめないで・・・牡蠣はなぜ『あたる』のか?」(大澤真先生))

 

○ 固着性=移動できない  カキの汚染の有無は棲息海域の汚染に依存する

○ 濾過食者(filter feeder 汚染があれば濃縮してしまう

したがって、生産者は環境海域の保全・改善に努力する

                河川の水源〜河口の住民の意識も問われる

 

「生食用」カキ

  「加熱用」カキ

原則的に浄化処理を義務付けられている

浄化処理は義務ではない

細菌(・ウイルス)数は比較的少ない

細菌(・ウイルス数)は比較的多い

生で食べても中りにくい

加熱は必須

 

 

収穫してから出荷まで時間がかかるので身が痩せ、味が落ちる。(カキは剝き身でも生きている)     塩素臭がつく

収穫してすぐに出荷できるので新鮮。ぷりぷり、かつ、おいしいうちに食べられる

 

【消費者が購入するまでの問題】

・流入域全体の排水処理

・養殖水域の選定

・浄化法の標準化

RT-PCR法の感度

・・・・そもそも、NVの生態は?

 

【ノロウイルスの生態】

・有名な割には培養系が確立されていない

・海水中では増えない、カキの中でも増えない

・ヒトにしか感染しない(ヒトの中でしか増えない)

・タイプがたくさんある

・免疫に関与するのがIgA(すぐ忘れる)

・アルコールで不活化されない

 

★研究が難しくてよくわかっていない

★なかなか免疫ができない、長続きしない

★感染対策がたいへん、あっという間に病棟閉鎖

 

【カキは剝くだけ!】

・生で食べる貝類は、職人さんが捌いてくれるのが基本。大まかには貝柱(閉殻筋)、ヒモ(外套膜)、ワタ(消化管)に分ける。

・加熱して食べる貝類は、食感を損ねるもの以外は下処理しないで丸ごと食べる。

・カキはほぼ唯一の、丸ごと食べる二枚貝

(注)地域・嗜好によって他にも食べる貝があります

 

【感染の3要素】

 

【では、どうしたら?】

・「加熱用」と表示されたカキは充分加熱する。

              85〜90、90秒間 / 生煮え厳禁。

                            でも、煮えすぎるとカキがいなくなっちゃう

・「生食用」と表示されていても覚悟して食べる。

               産地を選ぶ。 / 出荷業者を選ぶ。

・「加熱用」を生で食べて中るのは論外。

 

【ノロウイルス感染対策】

・疑ったら感染対策開始(診断されたら、ではない)

・可能な限り個室隔離

・嘔吐物、排泄物の処理には次亜塩素酸

 

【まとめ】

★加熱用カキは加熱しましょう

★冬場の嘔吐・下痢はノロウイルス感染症として対応しましょう

★ノロウイルスの間合い(2m)に無防備に踏み込まないようにしましょう