「とろみについて」 報告と雑感

(室蘭登別食介護研究会 第3回研修会 (2014.3.26))

 

2014326日(水)、第3回研修会では、「とろみ剤徹底追求」というテーマで、講習・グループワーク・商品説明等を行いました。

 

 現在、介護の現場では「とろみ剤」は「当たり前」の商品になっているようです。「誤嚥」「誤嚥性肺炎」という言葉が一般的になり、その予防として、水ものを飲む際にはとろみ剤を使うことはもちろん、食事を作る際にも頻用されています。

 今回、私自身も研修会のためにあれこれ調べたり議論を重ねる中で、これまでほったらかしにしていたいくつかの疑問が顕わになったこともありました。そこで、研修会の内容を振り返りながら、・・・

@     とろみはなぜ「誤嚥」の予防になるのか?

A     「とろみ」って何?

B     「とろみ」と「ゼリー」

C     「嚥下障害」の概念の拡大

D     とろみ剤の種類

などについて、まとめてみました。

 

 

@   とろみはなぜ「誤嚥」の予防になるのか?

 とろみが「誤嚥」の予防になる、ということについては、大まかには2つの説明がされています。

説明その1

★水分やキザミ食のように、細かく「分かれて」しまうものは、大半が食道へ飲み込まれたとしても、ばらばらに分かれた一部が気管に入っていきやすい。・・・⇒水分が、ひとまとまりになってばらばらになりにくくするために、とろみをつけることが有効である。

 私自身は、医者で、もともとからして高齢者の方の「嚥下障害」「誤嚥」に取り組んでいたことがこの道(食介護全般)に入ったきっかけでしたが、ごく初期の頃(1520年前ごろ)に勉強して染み付いていることは、「水分やキザミ食は危険」ということでした。当初強調されていたことは、「水分はさらりとして『飲み込みやすい』ものだけれど、ばらばらになりやすいので『誤嚥しやすい』」ということです。同時に、(今でも残っていますが)多くの病院でごく普通に高齢者の方に出されていた「キザミ食」という食事形態〜普通の食事のおかずを、細かく刻んでしまうもの〜が、同様の理由で、さらに加えて、みたところおいしそうではない、という理由もあって、一時は猛攻撃を食らったことを覚えています。

 従って、この理由に限っていえば、水やキザミ食をひとまとまりにする、という意味で、「凝集性」という性質を重視していたように思います。その頃は、この「凝集性」という言葉の詳しい意味を考えることもなく、漠然と、「まとまりのよさ」というイメージを持って考えていました。

 

 説明その2

★高齢者・障害者の方では、嚥下反射のタイミングがゆっくりになっていることが多く、ただの水だと、咽頭を通過するスピードが速すぎて、気管が蓋で閉じる前に、誤嚥につながってしまうことがある。・・・⇒のどに落ちていくスピードをゆっくりするために、とろみをつけることが勧められる。

 ・・・というのが、二つ目の理由です。むしろ昨今は、とろみをつける理由としては、こちらの説明を挙げているのを多く見かけるようです。スピードがゆっくりになる、ということですから、この理由を考える時には、「粘度」という言葉が連想されます。「粘度」については後述しますが、「ねっとりして」「ねばっとして」いるので、ゆっくり落ちていく、というわけです。

 

 

A 「とろみ」って何?

 さて、翻って、「とろみ」という言葉について考えて見ましょう。@では、「誤嚥」の予防としての説明として、「凝集性」と、「粘度」という言葉をあげています。

 

★「とろみ」という日本語

 まずは、「とろみ」という言葉の意味、ですが、・・・安易ですが、ウィキペディアをみてみると、「とろみとは、液体に多少の粘度がある状態を指す表現。主に食品に関係する分野で使用される。『とろり』『とろとろ』などとも表現される。・・・」(太字皆川)とあります。とろみとは、「粘度」がある状態、と考えられているわけです。
さらに、「また、ゆっくりとまとまって食道に流れやすくなって気管への誤嚥を防止する効果があり、介護食では幅広い料理にとろみが利用されている。そのため、とろみ調整は介護食調理の重要な要素を占めている。」とまで載っており、既に、「とろみ」という言葉と、誤嚥という言葉の関連性はかなり一般的になっているようです。

 

★各界の基準では?

 嚥下障害関連で、主だった組織から出されている、「とろみ」の基準について調べてみました。

1)平成21年、厚生労働省の「特別用途食品〜嚥下困難者用食品」の基準

 厚生労働省では、販売する食品について、乳児用、幼児用、妊産婦用、病者用、等、特別な用途に適する旨の表示をする場合の基準について、以下の表を提示しています。ここでは、明らかに「とろみ」とうたっているわけではないのですが、「嚥下困難者用食品」として、硬さ、と、付着性、と、凝集性、を採り上げています。付着性、は、上限値が決められて、低い方が望ましいとなっています。

2)平成20年、日本介護食品協議会(ユニバーサルデザインフード)

 昨今あちこちで目にするようになった、「ユニバーサルデザイン」ですが、そのフード版について、日本介護食品協議会が以下の表のように定めています。

  ここでは、とろみ、を定義するために、「かたさ」という単位と、「とんかつソース状」「マヨネーズ状」といった、「イメージ」を用いています。

 

 (3)平成25年、日本摂食嚥下リハビリテーション学会

 「日本摂食嚥下リハビリテーション学会」という、まさに、「摂食嚥下障害」に取り組んでいる学会では、もろもろの基準が混乱していることに対して、2013年に、学会としての基準を提示し、目下のところ一番新しく、我々も信頼すべきものとして以下の表が挙げられています。

 ここでは、粘度、と同時に、簡便な試験方法として、LST(ラインスプレッドテスト)というものが挙げられています。LSTについては、「プラスチック測定板で、直径30mmの金属性リングに試料を20ml注入し、30秒後にリングを持ち上げ、60秒後に試料の広がり距離を6点測定し、その平均値をLST値とする。粘度の一表現とされるが、粘性値とは完全には相関しない。」と説明されています。要は、上述したように、「咽頭で、ゆっくり落ちていく」ということを表現する方法なわけでしょう。

 

 

★粘度、付着性、凝集性、硬さ・・・そして、とろみ

 とろみ、という言葉を説明するために、「学問的」には、統一した「単位」を持ち出すことが望ましいのでしょうが、上に見たように、実際にはなかなか一致した見解には至っていないのが現状ではあるようです。その周辺には、粘度、付着性、凝集性、硬さ、などといった言葉・単位が錯綜しています。それぞれ一つずつあらためてみていきます。

 粘度、という言葉から連想するのは、「ねばっこさ」「ねばりけ」、食品としては、お餅やガムなどが連想されるのではないでしょうか。むしろ、粘度の高い食品というのは、飲み込みにくい、あるいは少なくとも食べにくい、と考えられるでしょう。摂食嚥下リハ学会の基準中でも、「とろみの程度が強いと、・・・・べたつきが強くなり、飲み込みにくくなることもあります。」など、とろみ(≒粘度)が強すぎることは戒められていますが、また別に、「べたつき」などという言葉が導入されています。

 関連して、付着性、という言葉があり、これについては、日本語としては明らかに、「(口の中やのどの壁に)くっついてしまう」ことを連想させ、あまりよろしくはない印象になります。おそらく前項の「べたつき」というところに近い概念と思われます。測定単位としては、粘度がmPasで、付着性はJ/㎥ですから、別物であることは確かですが、「粘度が増せば付着性も増す」という関係ではあるもののようです。

 硬さ、というのは、日本語としては、とろみ、という言葉とは一見無関係なもののように思えます。ただ、とろみをどんどん強くしていけば、確かに「硬く」なりはします。まとまりやすさ・凝集性、とも関連するイメージはあります。この「硬さ」を採用している介護食品協議会のホームページによれば、「粘度及び保形性とも相関が高く」など、硬さでとろみ食品の評価を代弁させる一定の意義はあるようです。

 最後に、凝集性、ですが、この言葉が一番難しく、ネット上で検索する限りでは、まったく定義に当たりません。唯一、島津製作所の作っている「テクスチュロメーター」という、食品の物性を測定する器械のページで、下記のような定義が書かれていました。この器械は、確かに食品の物性の研究をする際にはよく使われるもので、凝集性という単語も学問的にはこのように定義されている、ということはわかりましたが、残念ながら私には、このグラフと式から、凝集性、という言葉をイメージにつなげることができません。ただ、上述のとおり、私自身は嚥下障害を勉強し始めた初期の時点で、とろみ剤が必要とされる重要な性質として、この凝集性=まとまりやすさ、がポイントになっていたことを忘れることができません。

 

・・・・・・と、以上みてきたように、「とろみって何?」という設問に対しては、実は明確な答え・定義はないようなのです。現時点では、「粘度」という言葉が一番近いものとして受け入れられているようではありますが、粘度は濃すぎてはいけない、粘っこすぎるものはかえって嚥下障害には向かない、ということも強調されており、「食べやすいもの・飲み込みやすいもの」=「とろみ」と、直結した印象にはなりえないようです。

 

 

B 「とろみ」と「ゼリー」

 さて、話をさらにややこしくするかもしれませんが、嚥下障害の現場では、よく「ゼリー」も使われます。では、「ゼリー」とは何でしょうか?ゼリーととろみは何が違うのでしょうか?

 

★「ゼリー」という日本語

 もともと、これも私が勉強し始めた頃には、嚥下障害の方の初めの評価や訓練には、ゼリーを使うことが一般的でした。学会基準では、ゼリーでは危険な場合もあるので、とろみをつけたものを使う方がよい場合もある、と、変わってきましたが、総体的に見れば、学問の進歩に従って、患者には様々な状態がありうるわけなので、一概にゼリーだけがよいわけではなく、個々に判断する必要がある、と、当然の流れになっているわけで、今でも「基本」としては、ゼリーが頻用されて然るべき(多くの場合に、初期評価として最も安全性が高い)であろうとは思われます。ゼリーが危険なケース、というのは、ゼリーは操作中や口腔内で溶けて水になることが多いので、その水が誤嚥の原因になる、ということを意味しています。

 さて、ではあらためて、「ゼリー」とはどんなものを指しているのでしょうか?

 語源的には、gelgelatinと直接関連し、肉や魚を煮るなどして熱を加えた際、コラーゲンが変性し、冷えた後に固まってできる「煮こごり」を、もともと「ゼリー」と呼んでいたようです。変性したコラーゲンを「ゼラチン」=「ゼリーのもと」と呼び、従って、歴史的には、ゼラチンによって作るものが、ゼリーではあったわけです。

その後、17世紀に日本で、海草から抽出した「寒天」が、羊羹などに使われるようになりました。また、果物を煮詰めるとねっとりとしたジャムができますが、そのもとになる天然多糖類は、19世紀に「ペクチン」と呼ばれ分離され、こうした、海藻や植物・果物由来の様々な「ゼリーに似たもの」が、順次、「ゼリー」という言葉の中に加えられていきました。

まとめます。

「ゼリー」という言葉は、もともとは「ゼラチン由来の煮こごり」を指すもので、その後長く、ゼラチンを用いて作るもの、でしたが、19世紀以降、今日的には、「色々な材料を使っても、ゼラチンゼリー(煮こごり)に似た、水分の多いつるんとしたもの」というくらいの意味になってしまっています。ですから、寒天ゼリー、であったり、こんにゃくゼリー、であったり、といった言い方も通用しています。

 

★「とろみ」と「ゼリー」の比較

 上記のように、「ゼリー」という単語に既に明確な定義が得られない状態ではありますが、多くの人が考える「ゼリー」とはどんなものでしょうか?おそらく、今の日本では、「煮こごり」よりも、果汁の入ったお菓子のゼリーを連想する人が多いものと思いますが、大体、「甘くて、水分が多くて、つるんとして、やわらかい」もの、といったところではないかと思います。固体か液体か、と言えば固体であり、もともとのゼラチンゼリーがそうであったように、温かくなると溶けるものが多い、と言ってもいいかもしれません。

 こうしたゼリー、と、とろみ、をそれぞれ、「嚥下障害・誤嚥の予防として有利な点と不利な点」にまとめてみると、以下のような表になるでしょうか。

 ゼリーが、嚥下障害の際に使われる大きな理由は、最初に挙げたとおり、「凝集性」(一塊になりやすい)があることからです。凝集性、は、先に挙げたようにイメージしにくいものですが、それこそ、ゼリーのイメージ、といってよいかもしれません。ゼリーの場合、口の中で噛んで細かくなったとしても、ばらばらに散ってしまうことがおきにくい。細かくなったそれぞれがまたまとまって、一塊になってのどへ落ちていく。しかし、べたっと残ることがない。

 そもそも、「とろみ」は、性質についての言葉であり、「ゼリー」は食品そのものの名前です(とろみが強い、とは言うが、ゼリーが強い、とは言わない)から、両者を比較することはそもそも無意味なことかもしれません。しかし、ここでは嚥下障害・誤嚥、の分野に関して、それぞれの単語のイメージから、両者の性質を比較すれば、その大きな違いは、まさに、「とろみ」は粘っこくてべたつき、「ゼリー」はつるんとしてべたつかない、という点ではないかと思います。

つるんとしてべたつかない、ということが、嚥下障害に対して有効、という点に関しては、やや補足が必要です。

 

C 「嚥下障害」の概念の拡大

 ここまでのところ、実は、はじめは、「誤嚥」ということを問題にしていましたが、途中から「嚥下障害」という言葉を紛れ込ませています。

 繰り返しになりますが、私が1520年前に、主に高齢者に関してこの分野の勉強を始めたころには、まず「誤嚥」、そしてそのサインである「むせ」ということが大きな問題でした。厳密に、誤嚥、ということに関してのみ言えば、これまで述べてきたように、「一塊になって」「ややゆっくり落ちていく」という性質をもった食材であれば、対策として適当であったと考えられます。ここでは、特に「べたつき」「粘り気」ということが問題になることは少なかったかもしれません。危険、とみなされた代表は「水」でしたから、従って、溶けると水になってしまうゼリーよりも、水分にとろみをつける、ということが優先されたのかもしれません。

 この時代には、「誤嚥」=(狭義の)「嚥下障害」と捉えられていたように思います。

しかし、今では非常に一般的に、嚥下障害というのはもっと範囲が広いものと考えられています。例えば、もともとは歯科の先生方の領域かもしれませんが、「歯」が不健康(歯がない、歯が不ぞろい、義歯が合わない・・・・・・)であることにより、うまく咀嚼ができない、という方であったり、あるいは、認知症が進行して、食事を介助しても口をあけてくれない方、なども、「嚥下障害」とまとめられてしまう場合が見受けられます。あくまで、言葉の使い方、として言えば、これらは、「咀嚼障害」とか、「認知機能障害」と呼ばれるべきでしょうが、「うまく食事が摂れない」という意味で問題があることは間違いないので、学会としては、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会」という名称で、これらを総合的に考えることとしたわけです。厳密に言えば、「摂食障害」と「嚥下障害」の境界は曖昧でしょうし、通常日本語で「摂食障害」と言う場合には、精神心理的要因を背景とした「拒食症」を指す場合が多い、など、用語的には問題は残ります。が、いずれにしても、「食事が摂れない」ということには、総合的に対応を考えなければならないことは間違いないのです。

話がややそれましたが、上述のような(狭義の)「嚥下障害」(=誤嚥)、と、非常に多くの場合合併しているのが、口腔や舌の動き自体落ちている、「送り込み障害」、や、歯の不健康による「咀嚼障害」です。高齢であったり、あるいは高齢でかつ脳梗塞等による麻痺があったり、という方にとっては、これらが同時に起こっている場合が多いことはご理解頂けるでしょう。

すなわち、「飲み込みが悪い」方は、往々にして口やのどの動きが悪く、唾液の分泌も衰えていることが多いので、べたつきの多い、粘度の大きい食材では、口腔内や咽頭壁にくっついたりして残ってしまう事が多い。そうして残留したものが、やがて誤嚥して肺炎の原因になりかねない、という意味で、実は、とろみ(=粘度の強い=べたつきの強い)ものは、(広義の)嚥下障害には不適当である、ということにもなるわけです。

話をいったん整理します。正確な分類でないことは承知ですが、主に介護保険の現場で問題になるような高齢者の場合、下の図に示すように、「歯の問題」(=咀嚼障害)や、「口腔の動きの問題」(=送り込み障害)や、「飲み込みの問題」(=狭義の嚥下障害・誤嚥)、を抱えていることが多く、それぞれに適した食材の性質が考えられます。

(繰り返しますが、この図はまったくの私見で、摂食・嚥下に関わる障害はより多岐に渡ります。)

これらは、現在まとめて、「広義の嚥下障害」と認識されていますが、本来は、細かく見れば各々の障害は評価・分類をして、各々に最も適した食材を考えるべきなのでしょう。しかし、それぞれの障害は合併している場合が多いこと、また、そうした細かい評価・分類が難しい施設で対応しなければならないこと、などから、どうしても、全ての方に対して同時に適応するような「簡便な」食材が求められ、その結果、とろみ剤が普及するに至った、ということではないか、と思います。

一応、個々の障害についておさらいしておきます。

まず、「歯の問題・口の動きや舌の問題」だけを抱える方の場合、噛む、ということにのみ問題がある方の場合には、当然、噛まなくてもよい食材、を考えることになります。極論すれば、液体、流動食、のようなものを考えてよいわけです。私たち医者は、高齢の方で、食事量が少ない、という相談をされた場合に、「エンシュアリキッド」や、「ラコール」といった流動食を処方することがあります。こうした流動食は、比較的少量であっても、高カロリーで、必要な栄養素は全て入っている、という利点があります。液体なわけですから、そもそも狭義の嚥下障害であれば危険なわけですが、高齢で体力が衰えていたり、咀嚼に障害がある方の場合、「噛んで」「飲み込む」ということに大きな労力を感じる場合もあるので、こうした液体の流動食が有効な場合も多いのです。

 

次に、「口の動きや舌の問題・唾液分泌不全」だけ、を抱える方の場合、食べ物を口の中でまとめてのどに送り込む、ということにのみ問題がある方の場合には、口の中やのどでべたべたとしてくっついて、残留しやすいものは避けた方がよく、ここではゼリーを挙げておきました。

最後に、「飲み込みが悪い、狭義の嚥下障害」だけ、を抱える方の場合、「ゆっくり落ちていく」という特性を重視すれば、とろみ剤が最も適応となると言えます。

繰り返しますが、本来は、各人について、これらの障害のどれがもっとも問題になっているか、を見定めた上で、適切な食材を考えるのがベストの方法でしょうが、なかなかそれは難しい場面が多い。これら三つの障害を合併している、と考えた場合、どのような特性が求められるか、ということをまとめると、

(1)    やわらかい。

(2)    一塊になりやすい(凝集性が高い)。

(3)    のどにゆっくり落ちていく。

(4)    べたつかない。

(5)    溶けて水にならない。

といった要素を全て兼ね備えたものが望ましい、ということになります。ゼリーは、(5)が達成できず、とろみは(4)が難しい。その他例えば、豆腐、は(2)が難しい。液体、は(2)(5)に違反する、というわけです。ソフト食、というものが開発されてきた経緯では、まさにこれら全てを兼ね備えたもの、としてイメージされていたもののように思われます(ソフト食の実際についてはここでは触れません)。

 

D   とろみ剤の種類

 さて、では現在販売されている「とろみ剤」は、上記のような特性について、どう評価されるのでしょうか。今回我々の研修会では、まず事前にスタッフの間でいくつかのとろみ剤について事前評価を行い、その中でさらに選択したものについて研修会内グループワークで評価・議論を行いましたので、その結果について報告します。

 

★各メーカーとろみ剤の使用量一覧

 下の図は、今回スタッフが、各メーカーの出している資料をまとめて比較したものです。これまで書いてきたように、とろみ剤を比較する際の「単位」は様々なので、ユニバーサルデザイン推奨の「硬さ(N/㎥)」「ジャム状、などの性状用語」と、摂食嚥下リハ学会推奨の「粘度(mPas)」と、を併記してありますが、各メーカーの出している資料が必ずしもこれらを全て併記しているわけではなく、また微妙な用語の別もあって、なかなか正確な比較にはならないことはご承知下さい。また、今回、比較的手に入りやすいメーカー資料のみを選択していますが、特にこれらが「高性能」ということを意味する意図ではありません。

 概ね、新しい製品では、(100mlに対して)2g程度で、ほぼ同じ性状になるようにコントロールされているようです。また、各メーカー、最近では、コーヒーシュガーなどのように、1回分に適当な量をスティック状に包装して使いやすくしているものが増えています。

スクリーンショット(2014-03-14 15.39.45).png

 

★各とろみ剤の、性状比較

 次にお示しするのは、スタッフの方で、事前に各とろみ剤について実際に性状を比較した表です。

 量は上述のように、水100mlに対して2gとして統一しました。ソフティアSという製品について、各項目3点として基準とし、6人の栄養士・STの舌で、その他の製品を5点満点で評価する、という方法をとっています。6人のつけた点数の平均を、表にしています。

スクリーンショット(2014-03-17 18.06.31).png

 この評価では、性状を、色・におい・味・ざらつき・のどごし・べたつき・膜がはるか・広がり・LST、の9項目としていますが、この9項目での平均点で、それぞれの製品の優劣がつけられる、という根拠は全くありません。今回我々は、とろみ剤の評価を考える上で、こうした項目を挙げてみた、というまでです。あくまで、この9項目に限って、スタッフ内で味わってみたところの結果としては、
 ・つるりんこ 22.3
 ・ソフティアS 21.0
 ・お茶用トロメイク 20.0

といったところが、高得点となりました。

 

★研修会グループワークでの評価

 グループワークでは、事前にスタッフで評価を加えた上記のとろみ剤のうち3製品の味を実際に比べてみてもらった上で、以下の2点について議論してもらいました。

@ とろみ剤を選ぶ際、評価する項目は?

A     上記の内容から、とろみ剤を選ぶポイント・理由を自由に議論してください。

 

 結果は以下のとおりでした。

@について、5グループ間で話し合ってもらったところ、それぞれの項目を挙げたグループ数をグラフにしました。

「のどごし」が5点満点。味・使い勝手、が4点となりました。

Aについて、挙げられた意見を箇条書きに記します。 

・コストをおさえられるか

・味が変化しないか(おいしく飲んでもらえるように)

・とろみがつきやすいか(誤嚥しないように)

・抵抗なく飲めるか

・のどごしのよさ(後々に水が欲しくなるため)

・だまにならないか

・味

・見た目

・業者により粘度の強さが違う

・職場でとろみの勉強会はあるか?

   →なかなかなく、業者が持ってきた時くらい。

・とろみをつけると味が変わる為、利用者には不評

・病院の場合、個別対応は難しい。

・加減が難しい。

・飲む人によっては、遅いとどんどん固まってくる。

・在宅では食べやすい味、あんかけにして嫌な思いをしないように配慮する。お茶はうっすらとろみをつけるようにして、飲めなかったものが飲めるようになったケースもある。

 

 参考までに、それぞれの職場で現在使用しているとろみ剤について尋ねてみたところ、

・つるりんこ…8票 ・ソフティア…4票 ・トロメリン…4票

・トロミクリア…2票 ・トロミスマイル…1票 ・スルーキングソフト…1票

 ・トロミナールプラス…1票

でした。

 

★まとめ

 今回のグループワークを経た経験をまとめると、
・とろみ剤、は、すごく進化している。

・製品によっての個性も大変大きい印象である。

というところでしょうか。さらに、上述の考察を踏まえて付け加えると、

・これからのとろみ剤は、「粘度」のイメージよりも、ゼリーの要素を併せ持つ、「のどごし」(べたつかなさ)が重要なポイントになる。

という点を挙げておきたいと思います。

 前項までに挙げたことと関連してまとめておきます。

 「つるりんこ」という製品があります。森永乳業グループのクリニコというメーカーさんの商品です。そもそも、この名前からして、「つるりんこ」、すなわち、べたつかない、つるんとした、ということを前面に出しているわけで、従来の「とろみ剤」と一線を画そうとしていることが伺えます。つるりんこのホームページを参照しても、「飲み込みやすいつるりとしたゼリー状に仕上がります」とあり、そもそも既に「ゼリー」を目指しているのかもしれません。

 実は、こうした流れには先例がありました。ニュートリーというメーカーさんの商品の「ソフティア」では、以前から「とろみ用」と「ゼリー用」との2種類を分けて出しており、現在ではそれぞれ、ソフティアS、ソフティアG、という名称に変わっています。個人的にはかえってわかりにくくなっているような気がするのですが・・・。
 今回の研修会で、ソフティアを販売しているニュートリーの方に来ていただき、解説をして頂き、このソフティアのとろみ剤、と、ゼリー剤、の明確な区別について直接お尋ねしたのですが、回答は曖昧なままでした。ゼリー剤、といっても、ゼラチンを使用しているわけではなく、成分は「増粘多糖類・デキストラン」とのみなっており、それ以上は企業秘密の部分で、答えられないところもあるのでしょう。

上述のように、そもそも「とろみ」という言葉と「ゼリー」という言葉は並列になるものではないのですが、それをあえて分けて名づけた、ということは、強いて言えば、「べたっとした」ものと「つるんとした」ものを志向した、ということだったのでしょうか。

 いずれにしても、今回研修会で試食もして見ましたが、業界全体として、とろみ剤、というものが、つるんとした方向へ向かっていることが伺えました。そうすると、今後はますます、とろみ、と、ゼリー、という語は曖昧になっていくのかもしれませんし、「粘っこさ」「べたつき」をイメージさせる、とろみ、という言葉は適切でなくなっていくのかもしれない、と思わされました。

 グループワークの結果からも、現場からは、こうした、「のどごし」を重要視する意見が多く聞かれました。