室蘭登別食介護研究会 第17回研修会 (2017.6.8)
口腔保湿剤あれこれ・・・徹底比較
2017年6月8日(水)、第17回研修会では、「口腔保湿剤徹底比較」と銘打って、10種類以上の「口腔保湿剤」を購入し、ご参加の皆さんに実際に「食べ」比べてもらおう、という企画でした。
私の方では、この機会に、これら製品の成分や、一般的に、「乾燥」「保湿」ということについて勉強しよう、と思い立ったわけです。
もともと今回の企画は、2016年12月の研修会の際に、口腔ケアについての講習を歯科衛生士さんにお願いし、その際に私の方で、口腔乾燥についてトピックス的にお話ししていたことがきっかけでした。「口腔保湿剤」というものについて軽く触れ、いずれ、口腔保湿剤の徹底比較をやりましょう、と言っていたので。
ですので、まず今回は、「口腔が乾燥していると何がいけないのか」から始めて、「そもそも口腔保湿剤とは何か」、「どんな口腔保湿剤が売られているのか」、「どれを選んだらいいのか?」・・・といった順番で話を進めてみたいと思います。
@ 口腔が乾燥していると何がいけないのか
この設問については、当会の基本姿勢である、「最期まで口からおいしく食べるために何をしたらよいか」という趣旨に則って言えば、「口腔が乾燥していると食べ物がおいしくないから」ということが答えにはなります。
もともと、医療としての「摂食嚥下障害」の分野では、ごく当初から、入院中の患者さんなどで、例えば人工呼吸器を使うなどしていて、あるいは意識状態が悪くて、口をあけっぱなしにして、食事を長期間とらないような方で、口の中が「がびがび」になっている方、が問題になっていました。こうした患者さんに、さていざ食事を再開しよう、と思っても、長らく口の中はほったらかしで、ひどい状態で、とてもすぐに口に食べ物を入れられる状況ではない。・・・そこで、今につながる「口腔ケア」という分野が必要になってきた。ですから、これらは、少なくとも入院している患者さんに対しては、当初から、歯科口腔外科の先生にお願いをしたり、歯科衛生士の方にアドバイスを頂きながら、看護師さんが中心になって取り組んできた問題でした。
口腔ケア、を行う際に、補助的に使うものとして、口腔内に塗布するなどして、乾燥を防ぐもの、というのは、おそらく最初は「洋もの」だったと記憶していますが、学会などで紹介をされ始めた、歯科領域の製品、と覚えています。
ですから、当初は、口の中のケアを長期間行っていない「極端に」ひどい状態の入院患者さんなど、について考慮されていたと思います。その後、歯科の先生や、歯科衛生士さんからは、食事を普段している方でも、長期間入れ歯を入れっぱなしにしていたり、長らく「ハミガキ」などしたことがない、といった高齢者の方の口腔内が、かなりひどい状態である、という紹介がされるようになり、介護保険〜高齢者施設の増加、といった時流から、高齢者一般の、口腔ケアの問題へと拡大していって、今に至っています。
現在では、病院でも高齢者施設でも、口腔ケア、というのはかなり「必須」の項目になってきており、それと共に、「口腔保湿剤」の市場もかなり拡大をしている、ということのようです。
私の方では、口腔乾燥について、「食事がおいしく食べられない」ということ以外に、トピックス的に、
インフルエンザウイルスは、高湿度に弱い、という説があります。加湿しておけば、インフルエンザにはかからない、というお話。
を、12月の講習会の際にはしたのでした。「いろいろな意味で」、やっぱり乾燥しているのは良くない、と。
A そもそも口腔保湿剤、とはなにか
以上のようなことを背景として、今回、「口腔保湿剤」をある程度買いそろえてみたのですが、・・・
まず、最初に分かったことは、
「口腔保湿剤」などというものは、ない、
ということでした。
最近はもっぱら、ネットに頼るようになってしまい、今回、「口腔保湿剤」で検索をかけて、出てきた様々な製品を、まあメーカーや、うたい文句などで、バラエティに富むように15種類くらいをめどにピックアップして、ネット購入しました。
この時点ではまだあまり深く考えずに、まあ購入してみてから、と思っていたのですが、届いた製品を実際に見てみると、まず、どこにも「口腔保湿剤」とは書かれていない。いや、表書き、というか、そもそも商品名、や、うたい文句にはそれなりのことは書いてあるんです。が、裏面、成分表示などの小さな字のところに、「製品分類」というのでしょうか、書いてあるのは、多くは「口腔化粧品」というものでした。
口腔化粧品、という言葉自体、とても新鮮な感じがしました。口の中を化粧する、わけか。
のちに、成分一覧などの表は載せますが、今手元の数種類の製品の、「うたい文句」をいくつか列挙してみますと、
・「お口潤うスプレー」(口腔用化粧品)
・「うるおーら カラカラお口を、うるうるしっとり」(口腔化粧品)
・「アクアバランス 唾液の減少などによるお口の乾燥・ネバつきに」(医薬部外品 口中清涼剤)
・「オーロラコート 口腔湿潤ジェル」(口腔化粧品)
・「お口の渇きを癒すジェル」(蜂蜜加工食品)
・・・といった風で、「口の中を潤す」ということを前面にうたっていることは間違いなさそうですが、多くは「口腔化粧品」という分類で、その他、分類上は、「洗口液」「ハミガキ」「口中清涼剤」「食品」など様々です。
中でも、「お口の渇きを癒すジェル」は、ちょっと衝撃でした。だまされた感、というと、メーカーさんに失礼、ネットで大雑把に検索をしたこちらが悪いのですが、まさか食品がひっかかってくるとは思わなかった。
確かに裏面を見ると、
「お召し上がり方 チューブより適量をスプーンなどに取り、お召し上がりください。ディースプーン一杯程度が目安です。」
と書いておあり、なるほど、食品、なのでした。いや、食品でもいいのですが、「口腔保湿剤」と検索してこれだけのものがひっかかってくるけれど、「口腔保湿剤」という、少なくとも、「公式な」分類はないようだ、ということです。
単純に、「口の中を潤す」、ということで言えば、本来、「水」を中心とした「飲料」は、「口腔保湿剤」と言ってよいことになるでしょうし、のど飴や、そもそも「唾液分泌を促す」という意味では、すべての「食品」も、「口腔保湿剤」と言ってもいいのかも、ということになりそうです。
お肌のカサカサに対する「保湿」ということが、化粧品業界で盛んに言われているわけですから、口腔保湿剤、も、「口腔化粧品」として拡大していく、ということなのでしょう。
B 皮膚の乾燥:化粧品 から、口腔乾燥へ
・・・ということを考えて、ちょっと回り道ですが、乾燥に対してより昔から取り組んでいる「皮膚乾燥/化粧品」について調べてみよう、と思いました。
しかし、これがまたネット上ではもう収拾がつかなくなっている。ヒアルロン酸、セラミド、に始まり、化粧品に留まらず、皮膚への注射、美容整形、まで。
医者としての基本的な知識〜常識から判断して、当たり障りのないところだけ抜き出してみると、次のようです。
皮膚には、一番表面に、「皮脂」があり、その下に「角質層」がある。角質層内に、「天然保湿因子」「細胞間脂質」と呼ばれるものがあり、この3者が、「保湿」に関与している。
乾燥を防ぐための方法論(考え方)としては、主に3つ。
(1) 水分が足りないのだから、水分自体を補う。・・水分そのもの、あるいは、吸湿性の高いものを補う。
(2) 保湿を担当している生体成分を補給する。・・セラミド・尿素・ヒアルロン酸・・・
(3) 表面からの水分の蒸散を防ぐため、表面を覆う。・・ワセリン・グリセリン・・
・・・こうした方向に則って、様々な皮膚化粧品や、皮膚乾燥対策がなされているようです。
しかし、口腔内は、「皮膚」、とは異なり、「粘膜」です。皮膚と粘膜は、解剖的に全く異なる構造をしていますが、この違いを私なりにかみ砕いてみると、
@ 皮膚は、原則的に頑丈なバリアに覆われており、例えば水分をそのまま吸収することはないが、粘膜は穴だらけで、色々な物質を吸収しやすい。そもそも、口腔内、ということに関しては、そのまま胃・腸に入っていくわけであり、体内に吸収されること、あるいは、「食べられるもの」ということを前提に考えなければならない。
A そもそも粘膜は「粘液に覆われた」場所であり、基本的には表面は潤っている。
B 粘膜では、皮膚にあるような、セラミド、や、ヒアルロン酸、などの「保湿成分」が前面に出ることはない。
・・・などとなります。
こうした点に留意して「口腔保湿」を考えると、上に挙げた、皮膚乾燥を防ぐ方法論のうち、(2)の、生体成分の補給、はちょっと措いて、(1)水分を補給し、(3)蒸散を防ぐ、ということを主として考えつつ、吸収されることを前提に、「食品」としての、安全性の高いもの、という方向になるのかな、と考えました。
以上、考えたうえで、実際の各製品の成分を見てみましょう。
C 各「口腔保湿剤」成分比較
あくまで、私がランダムに選んだ18製品に限って、のことですが、製品に記載してある、「分類」と「成分」を一覧表にしたのが、下記の表です。
「水」は、基材としてすべて入っているものと思われますが、共通して含まれている目立った成分を抜き出してみると、
★キシリトール・・・16/18
★グリセリン・・・13/18
★ヒアルロン酸Na・・・8/18
★PG・・・10/18 BG・・・2/18
★トレハロース・・・5/18
のようになります。
もちろん、これが「保湿」のすべて、というわけではないのでしょうが、多くの製品に共通して使われている、ということにはそれなりの意味があると考えてよいのでしょう。
表の一番下に、「ヒルドイドローション」という、口腔保湿剤とは関係ないものを、参考までに一つ加えてあります。これは、「皮膚の乾燥症」に対して医者が処方できる、いわゆる「保険医薬品」です。ヒルドイドの成分は、「ヘパリン類似物質」のみ、です。
このように、医者、が、病気、に対して使う薬剤、特に、保険で認可されている薬品、というのは、通常は、当該の問題に対して直接的に作用する成分のみが使われているので、ほとんどの場合、成分表示は「単剤」です(必ずしも、ではありません)。しかし、一般に市販されているもの、今回のように、「化粧品」のようなものになると、香料、保存料、甘味料・・・といった、耳目を集めるための、と言いますか、他との差異を作り出すための色々な成分が添加されてしまいます。こうなると、もう、一介の医者にはついていけない領域になってしまう。そこで、多くの製品に共通して含まれているものが、本来の「保湿」の目的を狙ったものかな?と推測をするわけです。
そこで、上記の、キシリトール、グリセリン、ヒアルロン酸、PG、BG、トレハロース、について、それぞれみてみることにします。
まず、最初にお断り。
私の手元に、「健康食品・サプリメント「成分」のすべて 2017」という書物があります。日本医師会/日本薬剤師会/日本歯科医師会監修の立派な辞典ですが、もとは、アメリカで発行されているものの翻訳です。タイトルそのままですが、少なくともアメリカで、「健康食品」として口に入れてよいことになっているものについて網羅してあります。上に挙げたもののうち、この本に掲載されているのは、キシリトール、グリセリン、ヒアルロン酸、の3つのみです。
この3つについては、この本から抜き書きしてみます。
(1)キシリトール
【概要】キシリトールは果物や野菜を含むほとんどすべての植物でみられる天然の糖アルコールです。カバノキから抽出して「くすり」を作ることもあります。キシリトールは佐藤の代替品として、砂糖不使用のチューインガム、ミント、およびほかの飴に多く使われます。ただし、シュガーレスガムの甘味料には、一般的に使用されるより安価な甘味料ソルビトールが使われています。
【安全性】食品中の存在する量では安全です。1日およそ50gまでの量なら、医薬品として使用する場合もほとんどの成人に安全だといえます。これより多い用量では使用しないでください。(後略)
【有効性】
★有効性レベルA:虫歯の予防。(後略)
★有効性レベルB:就学前の児童における耳感染(中耳炎)の症状の緩和。(後略)
★科学的データが不十分です:口内乾燥予防または糖尿病患者の砂糖の代用品としての使用。
・・・・・・となっており、あくまで、「健康食品・サプリメント」として考えた時には、口内乾燥予防に関する有効性ははっきりしない、という記載です。
研修会会場に来て頂いていた、歯科医師の方にご意見頂きましたが、「キシリトールは、もともとが甘味料、ということでもあり、虫歯の予防にはなることが明らかなので、こうした口の中に入れる製品としては、『虫歯の予防になる甘味料』という意味合いで多く使われる。保湿についてはどうであれ、少なくとも使われて悪いものではない、ということだろう」というご意見でした。
(2)グリセリン
【概要】グリセリンは天然由来の化合物です。「くすり」に使用されることもあります。米国食品医薬品局(FDA)の許可を得た用法や形態がいくつかあります。
【安全性】ほとんどの成人には安全です。米国食品医薬品局(FDA)がその安全性と有効性を審査していない調合製剤を使用するのは、安全とはいえません。経口薬として摂取する場合、頭痛、めまい、お腹の張り、悪心、嘔吐、のどの渇き、下痢といった副作用をもたらすおそれがあります。経静脈投与は、安全とはいえません。赤血球にひどい損傷を受けるおそれがあります。
【有効性】
★有効性レベルA:座薬として直腸に使用する場合の便秘薬。
★有効性レベルC:経口摂取の場合の体重減少の緩和。
★有効性レベルD:経口摂取の場合の運動能力の改善。静脈注射による場合の脳卒中の治療。
★科学的データが不十分です:運動選手や腸の疾患を有するヒトを対象とした体内水分値の維持(水分補給)の補助など。
●体内での働き:水分を腸に引き寄せ、便を柔らかくし便秘を緩和します。
・・・・・・となっています。
因みに、文中の「有効性」に関しては、この本では、@〜Eに分類されており、@が「効きます」、Eが「効きません」です。「科学的データが不十分です」は、効くも効かないも、データがない、ということになります。
グリセリンは、医者として言えば、真っ先には「浣腸」です。グリセリン浣腸。脳梗塞の際にも確かに使います。「浸透圧利尿剤」と言って、要は、「濃い」もので、水をよく吸う、というイメージでしょうか。腸の中で、水分を吸収して、便を柔らかくして便秘を緩和する。あるいは、脳のむくみの水分を吸収して尿として排出する。といった風に、水をよく吸収する。ですから、少なくとも使いすぎると、文中にもあるように、「のどの渇き」をきたしたりすることにもなりますが、適量・少量であれば、それこそ「保湿」して、水分を逃がさない、という用途にもなりうるわけです。
化粧品にも長らく配合されてきた歴史があり、皮膚に塗布することで、皮膚表面から水分が逃げていく量を減らしたり、角質層の水分量が増えることがわかっていますが、空気中の乾燥に影響を受けやすく、湿気の少ない冬の季節は高濃度配合することで皮膚の水分を吸収してしまい、皮膚を乾燥させて肌荒れの原因となることもある、と言われます。
やはり何事も、「使いすぎ」はよくない。雑に使ってよいものでもない。少なくとも、安全性は保証されているようです。
(3)ヒアルロン酸
【概要】ヒアルロン酸は、人体内に存在する物質です。特に、目の硝子体および関節腔の滑液に高濃度で存在しています。「くすり」に使われるヒアルロン酸は、鶏冠から抽出するか乳酸菌や連鎖球菌により人工的に作ることができます。
【安全性】ヒアルロン酸の経口摂取、皮膚への塗布、注射による投与は、適量であれば、ほとんどの人に安全のようです。(後略)
【有効性】
★有効性レベルA:口内の痛み。ゲルを塗布した場合。 白内障。この場合、眼科手術医が注射してください。
★有効性レベルB:皮膚の老化。複数の研究によれば、特定のヒアルロン酸製品を、ほうれい線に注射することで最大1年にわたり、しわが薄くなることが示唆されています。/変形性関節症。ヒアルロン酸の医師。薬剤師による関節への注射により、関節のこわばりや痛みに有効である可能性があります。米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けていますが、効果には個人差があります。ヒアルロン酸療法で関節のこわばりの改善、および痛みの緩和が一部報告されていますが、常に同じ効果が出るとは限りません。ヒアルロン酸の長期間使用が関節の障害の進行を遅くするのか、軽減するのかは不明です。
★科学的データが不十分です:ドライアイ、眼損傷、皮膚創傷や熱傷の治癒。
●体内での働き:関節やそのほかの組織のクッション、潤滑薬として働きます。さらに、炎症反応に作用するようです。
・・・・・・となっています。
正直なところ、ヒアルロン酸については、全くわかりません。医者としては、確かに関節腔内に注射で使用する、ということが一般的な治療とはなっており、もともと体内に存在する成分ですので安全性も高い。しかし、おそらく特に日本では頻用されているように、経口摂取で効果があるのかどうか、は、全く触れられていません。同じく、「保湿」ということについても記載はありません。しかし、「口腔内に塗布して、痛みの緩和になる」ということについての有効性は高く、こうした効果を狙っているとすれば意味はありそうです。
続いて、PG・BG・トレハロース、については、上記の本には記載がありません。それぞれ、別途調べたことで解説を試みます。
(4)PG BG
◎PG・BG・DPGは特に水と一緒に化粧水のベースとして使用される事が多く、肌を角質層まで保湿させると言うよりは、単なる表面保湿だけに近いものです。
PG / プロピレングリコールといい、化粧水の水以外のベース部分に使われる成分ですが、刺激性が高いと考えられ、指定された成分の1つです。
今は入っていない方が増えましたが、成分表示に入っている場合は刺激があるので肌の弱い人には要注意です。
DPG / ジプロピレングリコールといい、PGをつくる際に出来るものでPGよりは刺激は少なめです。ベタツキが少なくサラッとした使用感なので使われる事は多いですが、敏感肌など刺激がダメな場合は避けた方が良いかも。
・・・・・・というのが、ごく基本的な情報のようです。どうも、PGの安全性、というか、刺激性、ということについては色々取り沙汰されているようですが、まとめると、「毒性」はまあないと言ってよいが、肌への浸透性が高く、「刺激性」が大きい、という観点から、今では、あえて化粧品に使われることはほとんどなくなっており、DPGにとって代わられている、ということのようです。
因みに、PGを配合している「オーロラコート」のメーカーである、明治さんに研修会当日ご参加いただいており、PGについて質問をしましたが、当日後日メールにて、
●「PG」に関しましては、口腔化粧品として使用許可が国から出ている事。
●食品添加物としても幅広く使用が認められている事。
●「PG」は保湿を目的としており、水とグリセリンとキサンタンガムとPGを組み合わせる事で、長時間の保湿・湿潤効果が期待できる為に配合しているとの事。
ただし、皆川先生のおっしゃられた通り安全性に関しては色々なご意見があるのも事実でございます。・・・
とのお返事を頂きました。
(5)トレハロース
トレハロース、については、一時期テレビなどでも盛んに取り上げられたことがあり、ご存知の方も多いのではないかと思いますが、日本は岡山県の、株式会社林原さんが、1994年に、安価な抽出法の開発に成功した、ということで話題になった、日本初の成分、といってもいいかもしれません。そのためか、上記の、アメリカの健康食品の書物には記載がないのでしょうが、もともとが「甘味料」としての分類です。
ホームページから情報を拾うと、・・・・・・
◎トウモロコシなどのでん粉に酵素を作用させて作られた多機能な糖質です。
低甘味でキレの良い甘味質を有し、非還元性で着色しにくく耐熱・耐酸性が高いため、幅広い食品に利用できます。
でん粉の老化抑制、たん白質の変性抑制、冷凍耐性向上、変色抑制など食品の物性を維持・改善する効果に優れ、美味しさの向上に寄与します。
トレハの甘味度は、砂糖の38%と低甘味で、甘さが後に引かず上品ですっきりとした味質を有しています。素材の持ち味を引き出し、食品を低甘味に仕上げることができます。
トレハロースは天然の糖質で、その働きの中でも最も優れているのが保湿です。トレハロースが豊富な干しシイタケが水を戻したら復活するように、乾燥状態にあるときこそ高い保湿作用を発揮させます。乾燥状態になるとお肌は刺激を受けやすくなりますが、それを防ぐためにはトレハロースの保湿効果は大変役立ちます。
・・・・・・といったことが書かれており、保湿効果、は前面に出されています。
同時に、上のような図がホームページにも掲載されており、要は、「保湿性は高いが、吸湿性は低い」ということも特徴のようです。先に、グリセリン、の項で説明を書きましたが、乾燥・低湿の状態で吸湿性が高ければ、余計に皮膚や粘膜から水分を奪ってしまいかねないわけですが、そうした点からも、トレハロースは有利に働くのかもしれません。
D まとめ
今回あれこれ調べてみて、自分の経験からぱっと思いついたことから書きます。
まず、トレハロースや、グリセリン、キシリトール、を眺めてみて、なるほど、「保湿」、ということと、「吸湿」ということは、ごく近いながら距離のある概念なのだな、と。
湿気・水分を、よく吸う、ということは、とりもなおさず、「保湿」する、ということである。しかし、吸湿性が高ければ、体から水分を「奪って」しまうことになるので、使いすぎはよくない。表面に塗布して、コーティングすることによって、体から蒸発していく水分をとどめておく、という効果は期待できるのだろう。・・・
医療関係の方はご存じでしょうが、昔から、ひどい「床ずれ」「褥瘡」に、イソジンシュガー、というものが使われていました。イソジン(消毒剤)と、シュガー(砂糖)を混じただけのものですが、浸出液が多量にあるひどい傷に使うと、殺菌・消毒効果と共に、見事に浸出液を吸ってくれて、傷をガーゼで覆っていてもガーゼが全然濡れない。・・・砂糖、はもともと、「吸湿剤」として医療の現場で長らく使われてきています。キシリトールやトレハロース、その他、甘味料、として使われている多くの成分は、こうした効果を狙ったものでしょうが、いずれにしても、使い過ぎはよくない。うすうくコーティングするだけでよい。講習会に参加してくださった歯科衛生士の方からも、「使いすぎて、かえってかぴかぴになって、上あごに張り付いたりしているのもみかける」とおっしゃっており、何事も「使い方」だな、と。
さて、まとめ。
先に書きましたが、(1)水分を補給し、(3)蒸散を防ぐ、ということを主として考えつつ、吸収されることを前提に、「食品」としての、安全性の高いもの、ということを基本に考えていきます。
まず、1点目。上記商品の比較、ということから言えば、正直言って、市販製品に対してとやかくは言えません。既に「医療」を離れた、「商品」になっていますので、味や香り、「風味」までひっくるめて、それぞれのお好みで選んでもらうしかないでしょう。ただ、それでは結論にならないので、私自身の好みも含めて、医者として効果を考えての「原則」だけ挙げておけば、
・キシリトール・グリセリン・トレハロース・ヒアルロン酸、は、多くの商品に使われていることからも、一定の効果は期待できるのであろう。いずれも、天然由来成分であり、食品としても認可されており安全性も高い。
・特に、トレハロースは、吸湿性が低い、という点に関しての説明も加えられており、個人的には印象が良い。
・ヒアルロン酸は、口腔内の痛みに対して効果が期待でき、長期間放置されていたような、口腔内の荒れがひどいような患者さんに対しては優先して使ってもよいかもしれない。
・PGは、口腔化粧品として国から認可されている、とのことは事実であろうが、皮膚化粧品としても「刺激性が強い」として使われない方向になってきている、とすると、あえて粘膜に使用することは疑問が残る。
・医者としての感覚では、どうしても、「くすり」として考えれば、「余分な成分」は少ない方がよい。
・・・・・・などの点から考えると、私自身は、
★ウエットエイド(美粧ケミカル):トレハロース・ヒアルロン酸が含まれ、あえてPGではなくBGを選択。余分な香料などほとんどない。
★絹水(生化学工業):一番シンプル。
が好み、です。
くどいですが、あくまで私の好み、です。宣伝でもありません。製造元からお金もらったりしていません。皆さんご自由にお選びください。
次いで、まとめ、2点目。
使用する人、をある程度分けて考えた方がよいのだろう、と思います。
(1)先にも書きましたが、もともと医療従事者としては、「入院中の患者さんなどで、人工呼吸器を使うなどしていて、あるいは意識状態が悪くて、口をあけっぱなしにして、食事を長期間とらないような方」というような、かなり特殊な状況の方を問題にしていました。そこまでではなくとも、高齢者施設などでは、経管栄養で、口から食事はしておらず、しゃべることもできず、少なくとも自分で口をゆすいだり歯を磨いたりできないような方、では、専門的に、歯科衛生士さんや看護者・介護者が、ある程度「口腔ケア」をして、その上で上記商品を使う。とすれば、やはり、薬、に準じて、私の挙げた、ウエットエイドや絹水のような、シンプルなものを使った方がよいのでは、と思います。
(2)今回、研修会にも来られてお話ししましたが、口腔内の手術をしたり、その他特殊な疾患で、「唾液が出ない」という方がおられます。こうした方は、そもそもやはり「疾患」として考えないといけなくて、薬剤として医者が処方できるのは、サリベート(人口唾液)というものが主なのです。唾液が出ない、のですから、いくら蒸散を防ぐ、と言ってみても、水分そのものを補給しないといけない。こうした原則は大事だと思います。
そこで、私自身は、以前からパナソニックの下記製品に注目しています。
またしてもお断りしますが、宣伝のつもりはありません。単純に、口が乾く、のであれば、水分を補給する、のが基本だ、と考えます。サリベート、もよいのですが、まあ、ただの水、でもよいわけで、この製品は、一度買ってしまえば水を入れ替えるだけでよく、ある意味一番安価だろう、と思います。シンプル、なのですが、他に類似の製品もないようで、あんまり売れてないのかな、と思ってしまいます。
唾液が出ない、という特殊な場合に限らず、夜に口をあけっぱなしにする癖があり、乾燥してしまう、というような方も、枕元にひとつ置いておいて、目が覚めた時に使う、ということでもよい。わざわざそのたびに、水を飲むために起きる、ということの難しいADLの方、などには使い勝手が良いのでは、と思います。
(3)その他、口から食事ができて、自分で歯を磨いたり、ということもできるレベルの方は、そもそもあまり、口腔保湿、ということを考えなくてもよいのでは、?・・・と、医者としては思います。しっかり食べて、しっかり歯ブラシをして、ということで、唾液分泌はかなり期待できます。水分補給をしっかりする、ということはやっぱり基本です。
口が乾く、と自分で思っている方は、まずは、飲んでいる薬の副作用、ということもあるので、かかりつけの医者に相談をするのがまず。
その次に、唾液腺マッサージ。
ガムの噛める方は、ガムを噛むことによる刺激で唾液分泌を促進することができるのでお奨めです。あるいは、のど飴なども上手に使えばかなり有効です。なるべく「くすり」に頼らずに、シンプルな方法を心がけることが大切です。
しかし、上記のような商品がたくさん出ているのも、まさにこうした方々をターゲットにしているのだろう、と思いますが。それこそ、味など好みに応じて、自由に選んでいただければよいと思います。