第11章:いわき食介護研究会の取り組み
「食」の問題を地域で解決
食環境を包括的に支援する
「食介護」とは、筆者が7年前につくった造語です。今までの食事の介助教育は介助の技術を磨く技術論でしたが、それだけでは食べられない現実に直面している要介護者を支援していくことは不可能でした。そこで、一生おいしく食べていただくためには、食べられない原因を機能面だけではなく、心理的、食習慣、食文化など広い視野に立って、食環境を包括的に支援する必要があると考えて「食介護」という新しい分野で、医学的立場から医療・福祉・保健の各職種とのネットワークを築き、研修をすることを目的として「いわき食介護研究会」を立ち上げました。
当会は1997年に訪問歯科診療のあり方を研修する目的で、歯科医師3人、歯科衛生士2人で研修を始めました。食事介護の重要性を認識し、研修の取り組みを生活の基盤である「食」の問題をテーマに組み立てた結果、発足当初20人だった会員数が1年で163人へと急増し、現在では医療系を中心としたあらゆる職種の参加により、会員は305人となっています。
活動は月1回(第4水曜日)の研修会および症例検討会を行い、現在までに78回開催しています。地元で活躍している各職種の皆さんに講師を依頼しているため、会員との密接なネットワークを築けると同時に、地域での共通の問題を解決することに役立っています。
料理教室やコンテストも
研修会の内容は、摂食嚥下障害者の対応を中心として、口腔ケアや介護食など食環境の整備のための研修を取り入れています。変わったところでは、五感の活性化のためのメディカルアロマセラピーや音楽療法、インテリアデザイナーによる食卓の照明方法、フランス料理シェフによる料理の盛り付け方法なども行っています。ほかには、会員の症例発表の場として「いわき食介護学会」や市民を対象にした「食介護フォーラム」の開催、会で作成した食アセスメント表、食前体操ビデオ、食介護マニュアル冊子を利用しての各職種への研修会、ホームヘルパー向けの介護食料理教室や介護食コンテストなども開催しています。
最近では、寝たきりにならないための介護予防を、転倒骨折・閉じこもり・気道感染予防に限らず、成人の生活習慣病の原因である食育まで広げ、小中学校での味覚教育をはじめとした食教育活動にも参加し、ライフステージに合わせた「食」の研修を取り入れています。
介護保険下での食介護の組織づくりは行政単位(市町村、特別区)で考えていくことが医療・福祉・保健を加えたネットワークづくり、食習慣、食文化の面からも最も効果的な社会資源となることができると思っています。今後、当会のような地域密着型組織が全国に数多く立ちあがることを願ってやみません。