食介護マニュアル9















































































第9章:口腔の健康(清掃)と介護予防

口腔内をきれいにしよう

 口腔を清潔に保つことの意義

おいしく食べるためには口が健康でなくてはなりません。口腔の衛生状態が悪いと、むし歯や歯周病などが悪化するのは当然ですが、心臓病や糖尿病などの全身疾患にも悪影響を及ぼします。歯周病のある妊婦の早産や低体重児出産が起こる可能性は健康な妊婦に比べて7倍のリスクがあると言われています。

このように、口腔の衛生状態は口腔の疾患のみならず、全身への健康に悪影響を与えるのです。特に高齢者や障害を持った方は、さらにリスクが高くなり、口腔内の細菌により誤嚥性肺炎を起こしたり、食べることや飲みこむことに支障をきたし、食べる意欲や生きる意欲を失ってしまいます。そのためにも口腔を清潔にして食べる機能を正常に維持していかなければなりません。




「口腔ケア」という言葉は最近では一般的な用語として用いられていますが、本来の口腔ケアは口の中の清掃だけではなく、口腔機能の維持回復のための口腔リハビリを含む口腔全般の健康管理方法として位置づけられています。

口腔の清掃としての口腔ケアの方法には、含嗽(うがい)、口腔清拭、歯磨き、義歯の清掃がありますが特に口腔内の清掃で忘れてはならないのが、舌や上あごの清掃です。

舌の表面は粗面で細菌が付着しやすい形態となっているため、カンジダ菌(カビの一種で口臭を引き起こす)などの細菌が付着繁殖しやすく、不潔領域になっています。上あごも見えにくい部位なので見落としやすく、喀痰の付着など念入りな清掃が必要となります。また経鼻栄養や胃ろうなど経管栄養を受けている方は口から食物を摂取しないので口腔清掃は必要ないと思われがちですが、口を動かすことが少なくなり、唾液の分泌が減少し自浄能力が衰え、口腔内は不潔になっているので、口腔の清掃は必要になってきます。

 口腔ケアが生活機能低下を防ぐ

一方、口腔清掃の自立度が低下すると、口臭、発音異常、審美的問題により閉じこもりになったり、口渇や味覚異常、摂食・嚥下困難により低栄養を招いてしまいます。さらに、口腔機能の低下により噛み合わせが悪くなると、転倒・骨折などを起こしてしまうこともあります。

要介護者に入れ歯を入れたところ、車いすから立ち上がったり、歩けるようになったという報告があります。また、入れ歯を入れてゲートボールをした時の的中率は、入れ歯を外した時に比べて大差が出ることがわかっています。体を保つ平行感覚機能は噛む筋肉(咀嚼筋)の左右のバランスが、全身の筋肉のバランスに影響を与えているのです。

このように、口腔ケアは歯科疾患の予防や咀嚼・嚥下などの口腔機能の維持、誤嚥性肺炎の予防など生活機能の低下や要介護状態の悪化を防ぐ介護予防になります。



厚生労働省では2006年度より介護保険事業を見直し、介護保険給付に介護予防サービスが含まれる予定です。その取り組みには、?生活機能向上、痴呆及びうつ対策、口腔機能低下予防、栄養改善、運動器の機能向上、閉じこもり予防?などの対策が盛りこまれます。口腔ケアはどの取り込みにもかかわってくるので、とても大切なことになります。