食介護マニュアル8






































































































第8章:食べる環境(介護食、食介助法)

おいしく食べる3つのポイント

 お茶碗も大切な食環境

高齢者に「食事の時、おいしく感じるのはどんな時ですか?」と尋ねると、「好きなものを食べる時」「みんなで食べる時」などの答えが返ってきます。一方、おいしく感じない時は「一人で食べる時」「歯が痛いとき」「うるさい所で食べる時」などが挙げられます。

それでは、おいしく食べる環境とはどのようなものでしょうか。介護を受けている方のおいしく食べられない原因には、大きく分けると、食べる意欲がない、噛めない、飲みこめないことがあります。そしてそれぞれの原因を解決するには、食べる環境の改善や口腔の健康の維持、食べる機能を正常に保つことが必要で、どれか一つ欠けてもおいしく食べられません。今回から、それぞれの対応についてお話ししましょう。

まず、食べる環境を維持するためには、食べる雰囲気の整備すなわち食べるために使う五感の環境づくりが必要になってきます。カーテンやテーブルクロスの色、テーブルの高さ、食器の大きさや形、やさしい音楽やおいしそうな匂い、一緒に食べる人との触れ合い。もちろん、おいしい食事。柄の付いた食器は食材そのものに影響を与えるので、あまり柄の付いた食器は用いないほうが良いとされています。


ある利用者が施設に入所したところ、何も食べなくなってしまいました。そこで自宅から使っていたお茶碗と箸を持ってきて使ったところ、喜んで食べるようになったということです。お茶碗1つでも、その方にとっては大切な食環境の一部だったのです。

 自分で食べるように介助する

次に、食形態の整備があります。健康な方にとっての食事の形態などは問題にはなりませんが、高齢者や障害を持った人は、神経や筋肉のまひにより、噛んだり飲み込んだりすることが難しくなってきます。そのためには食べ物の硬さや大きさやトロミ具合が問題になり、食べやすい形態(介護食)にする必要が出てきます。それには、やわらかく煮たものやトロミをつけたものなど、むせないで誤嚥しにくいのど越しのよいものを選ぶ必要があります。

その際、咀嚼嚥下機能の程度によって、やわらか食、やわらか一口食、やわらかつぶし食、やわらかゼリー・トロミ食など段階的に食形態を変えていかなければなりません。

ただし、噛めないことと飲みこめないことは、介護食の選択条件は違うので、分けて考えなければなりません。噛めない方のためには、食べやすい大きさ、軟らかさの選択があり、飲みこめない方にはトロミやゼリー状にすることが必要です。さらにおいしく食べるためには、食材の色、盛り付け方、温度にも配慮が必要となります。

最後に食介助の適正があります。食事の介助で忘れてはならないことは、介護される方は食べさせてもらうようになると、社会的に疎外されていると感じることです。人間は社会生活において、あらゆるものに貢献することで生きる意欲を持ちつづけています。介助する前に、介護される方が持っている能力を最大限に活用して、自分で食べられるように支援することが必要です。

手で料理を口に運ぶ動作が脳の食べるプログラムを開始させ口や唇が動き始め、食動作が開始されます。このように、自分で食べられるような道具の工夫(自助具)や選択も大切です。それでもなお食べられない場合は、誤嚥を防ぐためにむせないで食べられる姿勢や量、食べる時間(早さ)に注意しなければなりません。