食介護マニュアル5














































































































































第5章:口腔機能の基礎知識

食べない原因食べられない原因

 摂食嚥下運動と機能障害

口腔は、食べたり、お喋りをしたり、息をしたり、表現をするなどの働きがありますが、最も重要な働きとしては食物を摂取し、細かく砕き、飲み込むなど一連の摂食嚥下運動があります。

食べ物を認識して飲みこむまでのメカニズムは、食べ物を認識する段階(先行期)、口の中に取り込む段階(捕食期)、食べ物を飲みこみやすい形にする段階(咀嚼期)、食べ物を喉に移動する段階(口腔期)、飲みこむ段階(咽頭期)、胃まで運ぶ段階(食道期)の6段階に区分されます。しかし食行動は一つひとつの段階で行われるのでなく一連の動作として、輪唱のように繰り返されています。そして各段階での機能障害が食べられない、飲みこめないなどの症状となって現れてきます。




たとえば、脳血管障害により食べ物を食べ物として認知できなくなったり(失認)、食べる方法を忘れてしまったり(失行)という問題は先行期の認知障害と診断されます。また口唇や舌の片側麻痺の症状では口の中に取り込めない、口からこぼれてしまうなどの捕食障害、咀嚼期の食塊形成障害、





口腔期の食塊移送障害、咽頭期の咽頭通過障害・嚥下障害、食道期の食道通過障害となります。食べられない方にとってはどの段階での問題なのかを見極めたうえで対応をしていかなければなりません。










 原因を的確に把握し対応を

食事介助の時、食事をなかなか食べてくれないという問題に直面されることと思います。その時には次のような項目を把握して、本当の原因を探し、対応をしていかなければなりません。

食べ物を食べ物として考えられないのか?(失認、失行)

食べる機能が低下して食べられないのか?(咀嚼・嚥下障害)

食欲がほんとうにないのか?

前回の食事の量が多い場合や間食などをしている場合は空腹を感じていない。

食事の内容が嗜好に合わないものや食欲のわかない料理。最近では朝食はパンとコーヒー、食事はイタリアンなど高齢者の嗜好は変わってきています

意識的に食事を拒否しているか

環境での不安、不満:施設や病院に入ると環境が変わり食欲が落ちてしまいます。ある施設で入所後に食事を拒否された方が、家で使っていた茶碗と箸を使用したところ、食事をするようになったという報告がありました。高齢になると環境の変化が大きな不安を招くので、できるだけリラックスした環境を作っていかなければなりません。

排泄の不安:疾病や機能障害で便秘や下痢を起こしたり、頻便や頻尿によってオムツを使用しなくてはならない場合が生じてきます。その場合、排泄の不安から摂食を拒否される場合があります。

生命意欲の減退:ターミナルを迎える方で、食べることを異常に訴える方がいます。これは生きる意欲の表現であり、生きる意欲を失った時は、食べる行為を拒否されます。ぜひ、おいしく食べられる環境を整えて下さい。

介護者への信頼欠如:食べさせられる時は介護者に不安を抱くものです。熱いものが口に入れられるのではないか、など異常な想像をしてしまいます。食事介助に関しては信頼関係が一番大切なことになります。

食事をおいしく食べてもらうためには、食べない原因、食べられない原因を的確に把握し、それに対応したよい方法を見つけていかなければなりません。