食介護マニュアル4















































































第4章:口腔機能の基礎知識

噛むことに隠された数多くの効果

 脳や筋肉の衰えを防止する

食べて栄養を摂取すること、すなわち口から肛門へとつながる1本の管で繰り広げられるドラマは、繊細かつ壮大な大河ドラマのようであります。その取り込み口が口腔であり、食べること以外に息をしたり、お喋りをしたり、表現をするなどの働きがあります。

口腔は口唇や歯、歯肉、舌、口蓋に囲まれた空間であり、体の臓器の一部ではありませんが、その働きは生きるための第1歩を司る大切な取り入れ口であります。その口腔の機能を理解するためには組織学的機能ではなく、生理学的機能を考えなくてはなりません。今回は食べるために必要な噛む機能についてお話します。


「噛むこと」は食物を細かくするだけと考えがちですが、それ以外に大切な働きがあります。唾液や消化酵素の分泌を促進したり、顎や口腔の筋肉を刺激して組織の賦活化にも関与します。それにより衰えていく脳や筋肉の予防としての効果もあります。呆けないためには よく噛んで食べること 味わって食べること お喋りをして食べることが大切と言われています。

総入れ歯の方がゲートボールをした時、入れ歯をいれた時とはずした時では的中率に大きな差があることがわかっています。また車いすの方が入れ歯をつくって使用すると、立ちあがれたという報告もあります。このように噛むことは体の左右の筋肉や神経のバランスをよく保ち、力を最大限に使うことができるようになるのです。運動選手が力を出す時に、奥歯をかみ締めるのと同じ理由です。また次のような実験結果もあります。ねずみは本能的に穴を覗く習性があります。そこで歯のあるネズミが穴を覗く回数と歯を抜いた後の回数を比較したところ、歯のある時の方が3倍覗くことがわかりました。また動き回る距離にも大差がでました。このように歯がなくなり噛まなくなると、好奇心や活動力、行動力にも影響を与え、自発性も失われてしまいます。

 よく噛めば太らない!?

前号で説明したように、脳の活性化は五感や筋肉刺激などの入力系で行われています。よく噛んで食べることは歯根膜(歯と骨の間に介在している膜のような組織)や咀嚼筋を通して、総頚動脈血流量を増加させ脳の覚醒レベルを上げ、前頭葉を活性化します。また感覚器からの味覚、触覚刺激は過去の食記憶や食物の選択力を高め、生きる意欲を生み出します。そのほかの噛む効果としては、歯と歯肉の健康を保つ、唾液の分泌を促進する、満腹感が得られる、筋肉の萎縮を防ぐ、姿勢を保つ、ストレスを緩和する、発音を明確にする、ガンを抑制する?などがあります。

もう1つ、女性の皆さんに耳よりなお話。ダイエットに効果があります。昔、フレッチャーさんという方がよく噛むことでダイエットに成功したというニュースがありました。食事で満腹感を感じるのは、大脳の視床下部にある満腹中枢が血中の血糖値を感知するからなのです。その血糖値の上昇は食べてから20分ぐらいから始まると云われております。食事時間が短かい場合は、それを感知する前に食べきってしまい、余分な量が体内にカロリーとして残り、肥満になるのです。

早食いに肥満が多いのは、こんな理由があるのです。よく噛んで時間をかけて食べることは、食べる量と血糖値がバランスよく保たれて、健康な体をつくれるということです。今日からはよく噛んで食べましょう。